先日発売された「視聴覚教育 2017年11月号」で主幹教諭・出渕先生の「バーチャル英会話」に関する授業への取り組みが紹介されました。
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※下記文中で紹介している図や写真などは文末のPDFを参照してください。
タブレット端末を用いて教室でバーチャル英会話に挑戦
福岡県那珂川町立那珂川北中学校主幹教諭 出渕崇はじめに
那珂川北中学校は、福岡県筑紫郡那珂川町の北に位置する学校である。那珂川町は、豊かな自然に恵まれ、利便性にも富んだ町である。車で5分も走れば福岡市に到着するなど、通勤する方々にも人気があるエリアだ。本校は、平成16年に開校した福岡県内でも比較的新しい学校である。平成23年度からコミュニティ・スクールを推進しており、3年前からコミュニティIT推進委員会による学校のホームページの充実や、地域住民の方からの寄付による校内Wi-Fi環境の整備を図ってきた。2年前、本町は文部科学省「ICTを活用した教育推進自治体応援事業(ICTを活用した学びの推進プロジェクト)」の協力自治体に指定され(全国33地域)、本校は実証校としてICTを活用した教育を推進している。
タブレット端末40台導入
平成28年2月、校内のインフラ整備が整った(赴任した4年前には、各教室にデジタルテレビ、電子黒板各1台は設置。職員室には教員用パソコンが各1だいずつすでに整備されていた)。那珂川町の3中学校に、それぞれ導入された40台のタブレット端末とWi-Fi環境が、授業で使えるようになったのだ。そこで、平成28年11月の授業改善研究大会で、バーチャル英会話の授業を公開することを目標に、図1のような構想を立てた。STAGE1では、多聴多読、特に音読することを通して、自分で伝えたいことを英作文し、それをスピーチ、Show & Tellできる力を高める。また、ALTによる質問に対しても答えられるよう、Q&Aの指導は、通常授業の中で継続して行う。次に、生徒がタブレット端末を授業で使うために、まずは使用時のルールを確立させた。
- 机上には何も置かない。
- 常に机をくっつけたペア形態。
- 指示があるまでタブレット端末を触らない。
生徒はしっかりルールを守り、意欲的にタブレット端末に触れながら英語学習に取り組んでいった。また、常時授業を公開し、校内OJTに努めるのはもちろん、県内外からの視察もすべて受け入れ、授業後の協議会を通して授業改善を図った。
ICT教育が一斉授業の限界を解消
習熟度別クラスでなければ、そこに必ず学力の格差は生じる。例えば、模範CDを使って英語の音読一斉授業をした時、1回で音読できる生徒もいれば、何度も聞いて音読できない生徒が存在するのは仕方のないことだ。まさに、一斉指導の限界を感じた瞬間である。しかし、そこにタブレット端末を活用することで、個別に自分のペースで自分のレベルにあった練習を行うことが可能となった。ここでは、事例を2つ紹介する。
- 効果的な音読練習
デジタル教科書をすべてのタブレット端末にダウンロードし使用できれば、ほぼ解決なのだが、著作権と費用の面で実現が難しかった。そこで、手間はかかるがプレゼンテーションソフトウェアに打ち込んだ英文に音源や動画を貼り付け、動画編集用ソフトウェアを用い、無線データ通信システムで40台すべてのタブレット端末にデータを送信した。これにより、さまざまな新出単語を含む英語表現を個別に音読練習させることが可能となった。また、タブレット端末のストップウォッチ機能を使って、WPM(Words Per Minute)を確認するのも効果的だ。さらに、自分の発音を確認するために、音声認識ソフトウェアを使って確認をさせることも、生徒にとっては楽しみながら発音を学ぶことができたようだ(写真1)。今では、あらゆる英語の表現活動において、これらのアプリケーション(以下、アプリ)を重宝している。
- 効果的なスピーチ練習
これまでスピーチの指導も十分な個別指導ができず、悩みの種であった。特に発音指導に関しては、生徒一人一人の内容か異なるため、個別指導に限界があった。それを解消してくれたアプリがあった。生徒たちが自分の作成した原稿をこのアプリに入力するだけで、文字を音声に変換をしてくれる。性別やスピードのコントロールも可能で、教師一人でも一斉指導が十分可能となった。また、タブレット端末に録画させたデータを先の無線データ送信システムで回収することで、授業時間外に職員室で個別に評価をし、アドバイス等を入力して生徒に返すこともできた。また、編集ソフトウェアを活用したアフレコの授業やスキットの個別練習にも、このアプリは役に立っている。
バーチャル英会話の実際
平成28年6月。実証事業の母体となる、民間企業との本格的な打ち合わせが始まった。この企業の支援によって、校内環境設備はもちろん、校内のICT活用が格段に進んだ。
バーチャル英会話を行う前と後に生徒の英語力を図る会話テストを実施した。電話による10分程度のテストで、一例をあげると、絵を見ながら、講師が話す2つの文を聞き、絵に合っている文を繰り返し発話する問題で、電話から聞こえでくる英文は、「Threre are some dogs by the window.」、「There is a dog by the window.」といったテストであった。
夏の三者面談の時、保護者の面前でテストを受けさせた。保護者の方々の期待も高まっていった。
平成28年9月。いよいよ第1回バーチャル英会話の授業が始まった。20時間という限られた時数を「5クラス×4時間」で実践することにした。海外在住の外国人である講師は1回の授業で最大5人。つまり、7名程度のグループを5班作成する必要があった。そこで、現在の生活班をベースに、教え合い学習が可能になるよう、意図的なグループ作りから始めた。次頁写真2の配置で修正を繰り返し、4回の活動を行った。
ーチャル英会話の進め方は、Wi-Fi環境を整備した教室で、長机を2脚、タブレット端末を1班3台準備する。(次頁図2)1が講師と英会話をする生徒で、イヤホンマイクをセットしている。2は、1を援助する生徒である。イヤホンのみセットし、1が困った時に助ける存在である。2から6は待機生徒である。後ろから1の会話を聞きながら、自分たちの番の準備をしたり、1と7が困っているときは、後ろから援助できるように配置している。そして、1が終わった生徒は2の位置へ移動。2は3の位置へ。6は7の位置へ移動する。このように時間を区切ってローテーションをして全員が1の場所で英会話ができるように工夫した。
さらに、1~7にも意図的に順番をつけている。一人で自信をもって英会話ができる生徒はまだ少ない。常に英語が得意な生徒と苦手な生徒が1と7の場所に並ぶように意図的に順番を決めた。さらにその情報と生徒氏名を、事前に支援企業に伝えておくことで当日は活動を円滑に行うことができた。もちろん、トラブルは起きるもので、バーチャル英会話の授業中は、常に教師のパソコンはテレビ会議で企業の授業支援者と繋がっており、緊急対応をオンラインで伝え合うことを可能にした。
第1回バーチャル英会話では、以下の2つの表現活動を行った。
- 夏休みの英会話カテストの振り返り
事前に電話で行った英会話カテストの問題を講師に出してもらい、会話を広げていく(写真3)。
- フリートーク
What do you want to be in the future?など7つのテーマを準備しておき、一人一人違う質問をして会話を広げていく。生徒には話題について事前に伝えておき、準備をさせた。
教師も生徒も初めての経験で、うまく時間の調整ができず、6、7番目の生徒が、講師と英会話を十分にする時間を確保できなかった。
生徒からは、「難しかった」「Yes, Noでしか答えられなかった」「沈黙ばかりだった」「助けてあげられなかった」といった感想も多い中、「もっと話したい」「難しかったけど楽しかった」といった前向きな感想もたくさんあった。
第1回の反省として、思ったよりも生徒に沈黙が多いことが課題だった。第2回に向けて、この課題を克服すべく、以下の手だてをとった。
まず、日本語で会話のキャッチポールを5分続ける訓練を行った。日本語でも話す内容に困る生徒が多かったからである。条件として、相手の質問に答えた後、そのことについて新しい情報を伝え、さらに質問をして相手に消しゴムを渡す。消しゴムを渡された生徒は同じように答え、これを5分間続けるのである。さらに、自分の伝えたいことをウェビングマップ上に書かせ、必要な単語を準備させた。教師も、お助けフレーズ集を作り、生徒に配布した。生徒の順番も組み直し、準備は整った。
第2回では、第1回で時間がおしてフリートークの時間が十分に取れなかったという反省を生かし、聞かれる質問に対し、万全の準備をさせた上で、フリートークのみの活動を行った。
対策とお助けフレーズ集のおかげで、生徒はコミュニケーション・ストラテジーを駆使し、なんとか沈黙を作らない努力をした。生徒からは「先生の言っていることがわかったけど、どう答えていいかわからなかった」「Yes, Noでしか答えられなくて悔しい」「次はもっと会話を続けたい」という感想が増えた。英会話を続けられない悔しさを訴える生徒が急増したのだ。
そこで、第3回に向けて課題を克服するために以下の手だてをとつた。
まず、〈+ one sentence〉と〈+ one question〉に徹底的にこだわった。また、日本語を英語にしやすい日本語に変換する訓練を徹底した。例えば、「野球は僕の生き甲斐だ」を英文にするのは難しい。でもこの日本語を「野球はすべてだ/僕にとって」とすると、Baseball is everything to me.と簡単に同じような情報を相手に伝えることができるのだ。日本語を英語にしやすい日本語に変換して、〈+ one sentence〉と〈+ one question〉で会話を広げることが第3回のめあてとなった。第2回の反省で、フリートークだけでは少し間延びした感があったので、アイスブレイクをした後、フリートークという流れに改善した。これは非常に生徒たちにとっていい活動だった。第3回を終えた生徒からは、「楽しかった」「もっと話したい」「+ one sentence、+ one questionが言えて嬉しかった」「伝えたいことが伝わって嬉しかった」と言った感想が増えた。
第4回は、これまでの集大成として、講師の出身地を当てるなど(講師には出身地を言わないよう事前に指示)、講師のプロフィールを完成させるインタビュー活動を行った。班員と協働し、質問を考え、講師の話に答える。Yes, Noで終わることなく、〈+ one〉を意識して会話を広げていく。そして最後に、関係代名詞を用いた英文でプロフィールを完成させ、英語で発表する活動を行った。どの班も意欲的に活動に取り組み、英会話を楽しんでいた(写真4、5)。おわりに
実証事業にともない授業でのタブレット端末活用やバーチャル英会話体験により、生徒たちはICT機器を活用し、英語への興味関心を高め、自ら学習に取り組み、協働して課題を解決できるようになった。
英検IBAの受験結果は、平成28年2月、163人中、3級レベルの生徒は45人、準2級レベルの生徒は8人であったのが、同年11月、165人中、3級レベルの生徒は64人、準2級レベルの生徒は34人と飛躍的に増加した。
実証事業での授業を進めるにあたり、支援をいただいた企業、研究者の方々への感謝とともに、保護者の方々や教職員の協力があってこそ、本校のICT活用か進んできたと言える。このような体制を維持しつつ、今後、さらにICTの効果的な活用の仕方を追究し、生徒たちの主体的・協働的な学びを一層高めていきたいと強く願っている。